『プリズン・サークル』は本年度(令和2年度)の文化庁映画賞・文化記録映画部門・文化記録映画大賞を受賞しました!
そして、11/6(金)贈呈式、11/8(日)記念上映会+坂上香監督、アニメーション監督の若見ありささんによるトークショウが行われました!改めて、製作にかかわってくださった方々、撮影に協力してくださった方々、映画をご覧くださり応援してくださった方々、本当にありがとうございます!
受賞者のみなさま、ご関係者のみなさま、本当におめでとうございます。
贈呈式での坂上香監督のスピーチ全文をここに掲載いたします。ぜひ、多くの方に読んでいただきたいです。
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◤坂上香監督スピーチ◢(2020年11月6日(金))
私たちの作品が、大変意義のある賞をいただきましたことを、心より感謝いたします。優れた数多くの作品のなかから、本作品を選んでくださった審査員、並びに文化庁の皆さま、本当にありがとうございました。
エンドロールに長く連なる名前のリストからもわかるように、数多くの支援者による協力で完成に至った映画です。諦めさせようとする勢力と、諦めまいとする抵抗との根比べの10年だったように思います。前例がないということで6年に及んだ気の遠くなる撮影交渉、2年に渡る厳しい制約下での撮影、ほぼ全編画像処理を施さざるを得なかった2年間の苦役のような編集の中で、何度も「ムリ」と呟き、諦めそうにもなりました。しかし、支援者から寄せられる「寄付」と「思い」の両者が、私に諦めることを思いとどまらせてくれたと断言できます。
この他、今日会場に来てくださっている配給会社東風の皆さん、猫の手も借りたかったエンディングの撮影ではADをつとめてくれた当時中学1年生の息子など、感謝を述べたい人は大勢いますが、時間がないので割愛し、個別にお礼を述べさせていただきます。
この映画の主人公は、いわゆるヒーローではありません。予告編をご覧いただいたように、罪を犯した人たちです。しかし、本音を語ることで自分に向き合い、他者の語りを促すという彼らの姿勢は、今の社会に欠落している大切なものを見せてくれていると感じます。強い者に迎合し、事実をもみ消し、嘘に嘘を重ね、他者を黙らせ、ほとぼりが冷めるのを待ち、自分の利益や出世や身内にしか関心が向かない。そんな現在の政治や社会への痛烈な批判でもあると思っています。こういう作品が評価をされたということ自体驚きですし、文化庁という組織を正直見直しました。
今から四半世紀近く前になりますが、当時テレビの現場にいた私が携わった番組が、文化庁から賞をいただいたことがあります。芸術祭賞TV部門の優秀賞でした。テーマは一言でいうなら死刑制度。死刑とは国家が命を奪う、究極の制度です。当時、テレビで死刑を扱うこと自体がタブーでした。一方、今回は更生がテーマです。更生とは、「更に生きる」と書きます。出所者に対する偏見が根強く、「犯罪者に税金を使うな」という声が年々強まる中では、更生も、ある種タブーです。死刑と更生――殺す刑と生かす刑、正反対の処遇。にもかかわらず、どちらもこの社会ではタブーなのです。
思えば、私の一連の作品は、死刑制度に対する疑問から始まっています。人を殺す以外の方法を、社会として選択できないものか。人を排除する以外の方法を、私たちは持ち得ているだろうか。「被害者のため」と言いながら、どれだけ被害者の支援が存在しているのか?そんな疑問から、死刑制度の廃止を求める遺族の活動を追ったのが前回の受賞作です。
そして、それ以降、私は加害者と呼ばれる人の取材を主に続けてきました。なぜなら「彼らは私でもある」からです。かつての被害者であり、被害者の時に私たちが救えなかった人たちであり、そのことによって加害者に転じてしまった人たちであり、この暴力の連鎖は社会の至るところに存在します。セクハラやパワハラという形で、映画業界やマスコミにおいて日常化しているように。だからこそ、この映画を見た少なくない人たちが、「彼らは自分だ」と言う時、私はとてつもない希望を感じます。
映画のポスターにもなっている円座の中には、私たちそれぞれの椅子が用意されているはずです。そんな寛容な社会を夢見て、非寛容な社会への批判として、これからもあきらめず、じっくりと、映画を通して新しい価値観を生み出していきたいと思います。
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文化庁では、映画映画の向上と発展のため、文化庁映画賞として、優れた文化記録映画作品(文化記録映画部門)と、及び永年にわたり日本映画を支えてこられた方々(映画功労部門)に対する顕彰を実施しています。
詳しくは☞
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/92535901.html
🟨文化記録映画部門贈賞理由🟨
『プリズン・サークル』監督:坂上香
この作品は単なる刑務所内部を紹介した映画ではない。「島根あさひ社会復帰促進センター」という刑務所では,受刑者同士を対話させ自分を見つめ直すことを促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」と呼ばれる教育プログラムが試みられている。心の闇にある犯罪の原因を探り,言葉で表現することで更生に導く姿をカメラは克明に記録する。砂のアニメーションも印象的だ。他人の気持に無関心な今,多くの人に見てもらいたい作品である。
🎥『プリズン・サークル』
劇場情報▶
https://prison-circle.com/index.php?id=theater
🔶東京都中野区:ポレポレ東中野★文化記録映画大賞受賞記念上映★
12月5日(土)~12月11日(金)連日16:30ー
🔶山口県山口市:山口情報芸術センター〔YCAM〕
11月19日(木)、23日(月)、25日(水)〜28日(土)
🔹各地の上映会情報▶
https://prison-circle.com/prisonsys/jisyu/